エモーショナルリテラシーを
高めるカリキュラム
エンカウンターグループは、20世紀初頭に結核など当時完治が困難で 長期入院療養が必要だった病気の治療法の一つとして生まれました。
患者同士が小グループで自分達の問題の話し合いを進めたところ、 病状に画期的な改善がみられたのです。 その後、1940年代にイギリス人精神科医の マックスウェル・ジョーンズによって精神医学の分野に移植され、 クライエント中心療法(PCT)の創始者であるカール・ロジャースらの心理学者・療法家が発展させました。
アルコホーリクス・アノニマス(AA)などの自助グループのミーティングが、 いわゆる「言いっぱなし・聞きっぱなし」を基本にしているのに対し、 エンカウンターグループでは、出席者(パーティシパント)が意見や気持ちを自由に発言します。
そのことにより、自分の抱える問題を議題(トピック)としてグループに提示する人は、 問題を自分の言葉で語ることでより明確に理解し「振り返り(リフレクション)」を行なうだけでなく、周囲の人から新たな見方・考え・気づきを得ることができます。 これにより、迅速な問題の解決や、それが困難な場合でもより適切に対処していくことが可能になります。
セラピーとしてのエンカウンターグループは、 依存症からの回復を目指す治療共同体(セラピューティック・コミュニティ=TC)において、大きく進展しました。 現在の依存症の位置づけはエンカウンターグループ黎明期の結核と大きく似ています。
完治せず、症状が重篤な場合はリハビリ施設や病院などの社会から隔離された場所での滞在が余儀なくされます。また、一生涯をかけて回復に取り組む必要性や、 身体的・精神的・社会的なダメージの大きさから、 罹患者が互いの境遇や感情に共感したり動機や理念や目標を共有して協力しながら回復を目指したりすることが自然に行えます。
その結果、アメリカなどの依存症治療の先進国では、 多くの治療共同体や類似の施設・病院でエンカウンターグループが治療カリキュラムの中核に位置付けられています。
しかし、一方で自由な発言が可能な点は、 個人・不特定多数の参加者・グループ全体が特定の人を攻撃してしまう可能性があります。治療共同体の中には、クライアントの依存症に蝕まれた考え方や反社会的な行為をただすこと(コンフロンテーション)の道具としてエンカウンターグループに依拠しているところも多くあります。 これでは、社会の中でも極めて弱い立場にある依存症者を唯一安全に暮らせる場所で危険にさらす恐れが出てきます。このため、参加者が身体のみならず心理的・感情的にも絶対に安全な場所だと信頼できる環境が不可欠になってきます。
ワンネス財団は、米国のアリゾナ州など数か所と多くの刑務所でTCを運営しているAmity(アミティ)にグループの進め方(ファシリテーション)やTCの築き方を学んでいます。アミティでは、そこで生活する人の安全性が確保されている場所をサンクチュアリ(聖なる場所)と呼んでいます。
そこでは、傷つけられる恐れを抱かずに自分の考えや感情を表現することと同時に、同じ場所で暮らす仲間の安全を尊重しお互いに助け合うことを学んでいきます。また、アミティでは自分の感情に気付き理解・表現していく能力をエモーショナルリテラシーと呼び、これを高めていくことをカリキュラムの根本にしています。そして、お互いに教えあい学びあう場として自らをティーチング・セラピューティック・コミュニティと称しています。これをワンネス財団も目指しています。
我々がエモーショナルリテラシーを重視する理由は、依存症の背景として感情が大きくかかわっているという考えに基づいています。依存症などの自分に対する暴力や、犯罪などの他者に対する暴力の背景には、自分自身で対処できていない感情が根底にあると考えられます。
自分や他者に対する暴力から 解放されるには、自分自身の中に生じる感情を理解し、表現することで新しい生き方を身につけることができるのです。そのために、エモーショナルリテラシーの獲得が目指されています。そして、ワンネス財団のエンカウンターグループの中には、「傷つき」「怒り」「孤独」「不安」「痛み」などの感情を伝えることがカリキュラム化されています。